第2回 早稲田大学クイズ研究会
大学クイズ研究会で活躍する現役クイズプレイヤーたちへの取材を通じて、「知のアスリート」たちの頭脳の秘密に迫ろうという「ストロング・ブレイン」。
前回の東大クイズ研究会に続き、今回は早稲田大学クイズ研究会のみなさんにご登場いただいた。東大クイズ研究会と並び称されるクイズ名門校のメンバーは、いったいどんな知のノウハウを持っているのだろうか?
今回、取材に応じていただいたのは、創造理工学部4年の岡崎さん、政治経済学部3年の森田さん、そして法政大学法学部2年の佐藤さん。早稲田大学クイズ研究会は、インターカレッジサークルということで、現在数名ではあるが他大学の学生も加入しており、佐藤さんもその1人である。
まず、3人それぞれのクイズに深くかかわるきっかけをお聞きした。
クイズの世界にはまったきっかけ
岡崎さん
挨拶を交わした後、「前回の東大クイズ研究会の記事、読みました。興味深かったです」と言ってくれたのが、4年生の岡崎さん。岡崎さんは中学生のときから早稲田(早稲田中学校)であるが、前回の記事に登場してくれた東大クイズ研究会(TQC)の伊沢さんとは、中学生のときから交遊があるという。
「僕はあまり社交性のある方ではなかったのですが、開成中学・高校の仲間とは付き合いがありました。当時から伊沢君のクイズの実力は飛び抜けていましたね。」(岡崎さん)
その岡崎さんがクイズにはまるようになったのは、子ども時代のテレビの影響だという。
「子どもの頃から知識を得ることが好きで、『マンガ日本史』みたいな本や、科学系の本など、新しい本があるとすぐに手を取っていました。それでテレビでも、当時だと『アタック25』『クイズ$ミリオネア』などのクイズ番組を好んで観て、わかる問題があると、答えを言って家族に自慢したり…。それがクイズで正解する喜びを知ったきっかけですね」
そして、早稲田中学の文化祭でクイズ研究部のブースを訪れ、早押しクイズ大会を体験し、その魅力にとりつかれた岡崎さんは、これを楽しまない中高生活はあり得ないと、早稲田中学への入学とクイズ研究会への入部を決意。その通りのルートを歩むことになる。
早稲田高校・中学のクイズ研究部は、岡崎さんが入部した当時は30名弱だった。しかし彼が高校1年生のころ、テレビ番組の『全国高等学校クイズ選手権(以下、高校生クイズ)』が“知力の甲子園”というキャッチフレーズとともに、問題レベルを上げはじめて人気を呼ぶ。それとともにクイズ部も隆盛し、卒業するころには、部員も50人ほどに増えた。
そのクイズ研の中でも岡崎さんはトップレベルのプレイヤーとして活躍し、大会での優勝経験もある。そして早稲田大学へ進学後も、当然のように大学のクイズ研究会に入会した。
佐藤さん
テレビ番組の『高校生クイズ』をきっかけにクイズへの道を歩んだプレイヤーは多い。前回の東大クイズ研究会の伊沢さんもそうだった。そして、今回のお話を聞いた中で、より若い世代の佐藤さんは、その『高校生クイズ』で伊沢さんが活躍しているのを観てあこがれたという。
「僕が中学生のときに、伊沢さんが高校生クイズで2連覇したのを観て、あこがれました。それで調べたところ、家の近所の神奈川県立横須賀高校にもクイズ研究会があったので、体験入部に参加してみたらとても楽しくて、そのまま入部しました」(佐藤さん)
在学中に「第34回高校生クイズ」で準優勝するなど、高校時代はかなりの活躍を見せた佐藤さん。当然、大学でもクイズを続けるつもりだったが、進学した法政大学にはクイズ研究会がなかった。そこで、いくつかの大学クイズ研究会を見てまわり、一番勢いがあると感じた早稲田大学クイズ研に入会した。
森田さん
一方、森田さんの場合、2人と同じようにテレビのクイズ番組は好きだったが、高校に入る前からクイズ研究会を目指す意識はなかったという。もともと中学のときはテニス部に所属するスポーツが好きな少年であり、高校でもバトミントン部に入部。それが、偶然のきっかけでクイズにのめり込んでいく。
「スポーツが好きなので、埼玉県の栄東高校に入学後は、バトミントン部に入部しました。ところが、入学からまもない時期に、クラスメイトから『クイズ研究会を作るんだけど、入らない?』と誘われたんです。それまで高校にクイズ研究会はなかったのです。それで、バトミントン部と兼部で、クイズ研究会にも入りました。」
たまたまクラスメイトが誘ってくれたおかげで、高校クイズ研究会の創設メンバーとなった森田さん。その後、持ち前のクイズ好きの本領を発揮した。同校のクイズ研究会は現在『高校生クイズ』でも活躍しており、創設時には7人だった会員は、今では80名にもなるという。
そして早稲田大学入学後には、やはりスポーツ系のサークルも見て回ったりしたが、最終的にクイズ研究会に落ち着いた。
知識によるコミュニケーションと共感
今回興味深かったのは、3人のみなさんがクイズに興味を持ったきっかけとしてあげてくれたエピソードが、似ているものであったことだった。つまり、子どものころにテレビでクイズ番組を観て、答えを家族に披露していた、という経験である。
3人の幼少期に限らず、子どもが新しい知識を得ると、とくにたずねられなくても自分から「ねえねえ、これ知ってる?」と、家族や友だちに披露したがることはよく見られる。おそらく、新しく知識を得ることや、得た知識を他人に示したり教えたりすることは、人間にとって本質的な喜びなのだろう。
新しい知識を得るだけではなく、知識を持っていると人に認めてもらうこと、さらには人と知識を共有すること、そのように知識を媒介として人との関係の中で得られる喜びが、クイズの原初的な喜びである。
だから競技クイズにおいても、その喜びは、単に「知識の保有量争い」に勝つことだけから得られるのではない。もちろんそれが主目的でありつつ、その一方で前回の東大クイズ研究会の記事でも出ていた「コミュニケーションハブとしてのクイズ知識」という視点が欠かせないことが、今回も語られた。
「クイズを続けている1つの理由としては、クイズを通じてコミュニケーションを取れることが大きいですね。たとえば、芸能問題が出て、僕が答えたときに、君もそのこと知ってるんだ、とか。きっかけ作りになるというのがすごく大きな一面だと思っています。サッカーに詳しい人とぶつかって、すごく熱く話せたりとか。クイズを通じて、いろいろなことができるきっかけになります」(森田さん)
「普段はサークルの仲間と問題を出しあっていますが、オープンな大会のときは、一言も会話をしたことのないような年上の方に正解してもらうことがあります。そうすると、世代もぜんぜん違うこの人も、これを知っているんだなと思いますね」(岡崎さん)
出題者と解答者とが、ある事柄に対して共通の関心と知識を持っていることが、出題と解答を通じて確かめられ、そこから、いわば声にならない「会話」が生じる喜び。それもクイズの魅力の一面だ。知識が、クイズによる出題・解答という形を取ることにより、単なるデータではなくコミュニケーションの土台となっていく。そこがクイズの極めて人間くさい点である。そして、それは簡単に、実際の会話や豊かな交流へと花開いていく。
実際、早稲田大学では、クイズ研からスピンアウトするような形で、芸能好きが集まった「緑問会」、アニメ好きが集まった「青問会」などが誕生している(緑問、青問とは、ゲーム「クイズマジックアカデミー」で、ジャンルごとに割り当てられたパネルの色に由来している)。そうして、より自分の関心が強い分野に特化したメンバーたちの交流が行われている。
このようなコミュニケーションの喜びがある限り、もし将来、人工知能が発達して競技クイズという面では人間を凌駕する日が来たとしても、クイズを楽しむ人がいなくなることはないであろう。
それぞれの記憶術
クイズをやっているから、おとといの夕食を覚えていられるわけではない
だが、クイズを競技という点から見る場合はもちろん、コミュニケーションという楽しみの面に注目した場合であっても、一定の知識の集積がなければ、そもそもその土俵に乗ることができないことは言うまでもない。クイズ研に集うメンバーは、それを十分に意識して日々努力を重ねている。ただしそれは、記憶力という「脳の力」そのものが強くなるということではない。
「クイズをやっていたから、おとといの夕食を覚えていられるかというと、それはちょっと違うと思います。ただ、覚えなければならないことについて意識的に覚える際の、早く確実に覚えるためのコツみたいなものはクイズで得られるし、そういう点では役に立っていると思います」(岡崎さん)
そこで、それぞれにコツを聞いてみた。
解答ボタンを押されたポイントも確認
まず、自らメモ魔だという森田さんは、紙のノートや携帯電話にとにかく何でもメモすることを習慣としている。そして、大切なのはメモを取るだけはなく、それを日々見返すことによって知識の定着を図ることだという。
「知識を蓄えるという点に関しては、こういった会(サークルメンバーでのクイズ大会)で出された問題についてはメモを取ったり、本屋に行って、本から得た知識をメモしたり。また確実に覚えるという点ではそのノートを見直したりですね。あと、こういう大会の場合は、録音をさせてもらって、解答ボタンが押されたポイントを確認したりといったこともしています」(森田さん)
解答ボタンが押されたポイントというところが、競技クイズプレイヤーならではの着眼点だろう。
メモの功罪と重層的なイメージでの記憶
一方、岡崎さんはメモについては限定的な考え方だった。
「自分も、クイズで出された問題で知らなかった単語などはメモを取ります。ただ、昔はなんでもメモを取っていた時期があったのですが、それだと逆に全部チェックする時間がなくて、今は『これだけはどうしても覚えたい』ということだけを抽出して、1日に5~10個くらいの事柄だけをメモするようにしています。それはあまりメモを取り過ぎても、かえってなにが重要なのかわからなくなってしまうからです」(岡崎さん)
その代わり、岡崎さんは1つの知識についてなるべく重層的に覚えることを心がけているという。
「たとえば、あるポスターを作成したアーティストを問うみたいな難しい問題があったりします。そのときに、○○という商品のポスターを描いた作家はだれ、という問題文とその答えだけを見てもぜんぜんイメージがわかなくて、面として知識にならないと思います。そういう場合は、ネットで画像検索をします。そうするとポスターの絵柄などがわかるので、そのイメージと一緒に名前を覚えてしまうのです」(岡崎さん)
ビジュアルのイメージと一緒に名前を覚えることで、早押しクイズなどで出されたときにも、瞬時に思い出せるようになるという。そして、重層的に記憶するのは、必ずしもビジュアルに関連する知識だけに使えるものではない。
「たとえば、こうやって名刺をいただくじゃないですか。そうしたら、話しながら何度も名前を思い出すようにするのですが、その時にお名前だけじゃなくて、どこどこに勤めている、あるいは話の中で出てきた出身はどこどこ、みたいな関連情報と一緒に思い浮かべるようにするのです。そうすると、記憶に残りやすくなります」(岡崎さん)
丸暗記が苦手だから1冊のノートと、記憶のゲーム化
佐藤さんの場合、たとえば日本史年表で何年になにが起きたというような、いわゆる「丸暗記」は苦手だという。そこで彼は、2つのコツで知識を蓄えているといた。1つ目は、1冊のクイズノート作り。
「自分は5年間クイズをやっているのですが、1冊分厚いノートを買って、5年間その同じノートで知識を体系的にまとめています。」(佐藤さん)
クイズの知識を体系的にまとめる、というのは少しイメージをつかみにくいが、佐藤さんによると以下のような記述をしているらしい。
「クイズを長くやっていると、ぜんぜん関係ないジャンルの知識がつながっていることがよくあります。たとえば、岩倉具視さんという歴史上の人物がいます。これは日本史、政治史の知識です。一方、加山雄三さんというタレントさんがいますね。これは芸能、音楽ジャンルの知識です。実は、この2人親族で加山さんは岩倉さんの玄孫なのです。
こういうことを、1冊のノートに、ジャンルごと、また面白知識といった分類でまとめています。自分なりに覚えやすいノートを作って、それを何度も何度も見返しています。そうすると、楽しく覚えることができます。」(佐藤さん)
5年間のクイズ生活で得たあらゆる知識をノートにまとめつつ、その知識ごとのつながりをも記述しておくことで、ノート自体が1つの大きな知識の体系になるというわけだ。これなら、たしかに、個々の知識をバラバラに覚えておくよりずっと知識が定着するであろう。しかし、5年にわたってそのノートをとり続ける努力なしには、成り立たない。
佐藤さんが行っているもう1つの記憶術は、覚えること自体を「ゲーム化」することだ。
「楽しんで、ゲーム感覚で覚えるということもあります。ゲーム感覚というのは、たとえば、覚えたい単語が100個あったとしたら、それを10個ずつ10グループに分けて、ここまでが第1ステージ、ここから第2ステージと区切って、ステージごとにクリアしたり。これがなかなか覚えられないから、こいつがボスキャラだ、みたいに見立てて楽しむようにしています」(佐藤さん)
ロールプレイングゲームで、敵を倒してキャラクターを強化、育成していくように、知識を覚えることを、自分を強化、育成していくゲームとしてとらえるのは、とても良い方法のように思える。その報酬が、大会での成績という“スコア”として得られるのであれば、まさにゲーム的な達成感があるだろう。
まとまったボリュームの内容を覚える際のコツとしてぜひ参考にしたい。
問題作りと、いい問題、悪い問題
解き手からの評価を考える
また岡崎さんは、新しい知識に接した際、「これを問題にするならどういう風に出すか」を考えながら覚えておくことも多いという。
クイズプレイヤーにとって、問題作成には、解答とは別の魅力がある。それは、問題作りは自分の個性が反映できる能動的な行為である点だ。また、今までになかった視点をうまくまとめた問題ができると、解答者として強いということとは別の点から、クイズ仲間からの評価も得られるという。そのため、深くクイズにコミットしているプレイヤーの多くにとって、問題作りは欠かせない。
どのような事柄を問題にするのかにも出題者の個性が反映されるが、岡崎さんは割とありふれた事柄を、今までになった視点から出すことが好きだという。
「『これをこういう問題にして出すか』みたいに評価されると、嬉しいですね。」(岡崎さん)。
では、客観的な評価としての「いい問題、悪い問題」というのは、あるのだろうか?
森田さんは、「人それぞれ価値観が違うので、一概に言うのは難しい」と前置きしつつ、自分が作った問題については、「より多くの人に満足してもらえればよいかなと。より多くの人に満足してもらえた問題が、いい問題なのかな」という。
「ベタ問」の価値
佐藤さんも、「受け手に、いかに楽しいとか、面白いとか、思ってもらえるかですね」としつつ、「競技クイズでの話だと、ずっと出されている『ベタ問』と呼ばれる問題があります。こういう問題の多くは、いい問題だから出続けてると思うんです。そういうのも大切に使っていくのがいいのかな、と」といい、「ベタ問」の価値を指摘してくれた。
「いい問題だから何度も出されるというものがある一方で、前に出たからという理由だけで繰り返し出される問題もあるんですね。そういう中で、これはどっちの『ベタ問』なのかを見極めて、これは出されるべきだから出されてきたんだなという問題を愛したいと思っています。また、そういう風に出されるべきだから今後も出される問題を、自分でも出していきたいという考えはあります」(佐藤さん)
いわゆる「ベタ問」というと、やや下に見られる傾向がありそうなものだが、そこにいわば定番あるいは古典としての価値を見いだす佐藤さんの視点は、真のクイズ愛を感じられる。
一方、着眼点の新しさを追求する岡崎さんは、「今までクイズに問われなかったけど、自分が知っていたマニアックな知識が問題にされると、たしかにこれは今まで出てなかったけど、クイズにされてしかるべきだったなと感じる」とい、それが岡崎さんにとっていい問題の基準の1つとなっている。
「クイズで出された問題と、今まで出されていない問題の違いって、目をつけた人がいるかどうかということじゃないですか。だから自分より先に目をつけた人がいると、『遅れた』『負けた』という気持ちになることがあります。ある特定のジャンルで、そのジャンルが好きな人なら当然知っているはずの事柄を、他の人に先んじて自分が問題にして出題することが、学問で言う新規性の追求みたいなこととも通じるものがあります。それが、自分が作るときのいい問題の基準だと思いますし、そういう問題が出されたときに、これはいい問題だなと評価する基準だと思います」(岡崎さん)
受け手に喜んでもらうことの価値、長く使われる定番としての価値、そして、着眼点の新しさの価値。一口にいい問題、悪い問題といっても、三者三様の評価の基準がある。そのように多様な価値の基準をもつプレイヤーがそれぞれに楽しめるところがクイズの奥深さであるかもしれない。
クイズと学問との関連
クイズと学問とは「知識」の集積、活用という面において共通点を持つのではないか? その関連についてもたずねてみた。
まず岡崎さん。彼の専門は、都市計画学である。そこでは何よりも考え方の筋道、論理が重要視されるという。そのため、彼はクイズで得た知識が直接学問の役に立つとは考えていない。だが、クイズによって学問そのものを横から(正統ではない視点で)楽しむようなことは多いという。
「たとえば、私の専門では数式をたくさん使います。それぞれの数式に名前がついているのですが、普通の理工系の学生は数式の名前は覚えません。名前よりも式を使えることが大切なので。でも、クイズをやっているとその式の名前をクイズの問題にしたりできる。そういう新しい楽しみ方に、ある意味で、理工系の学問の“間違えた楽しみ方”をクイズでやっているのだなと思うときはあります」(岡崎さん)
一方、「クイズは大好きだけど、勉強は嫌い」だという佐藤さん(法学部)にとっては、クイズと学問とは明確に違うものだと感じられるという。
しかし、クイズが好きだから、クイズで出題されて覚えておいた事柄が授業で出てくると、それをきっかけに興味がわくのだとか。
「たとえば自分が全然興味がなかった映画の問題だったり、美術史家だとか画家だとか、そういう名前をちょっと聞いたりすると、これはクイズで聞いたことがあるからと、ちょっと興味がわいて頑張れそうに思います。
先日も、言語学という講義を取ったのですが、その初回が、クイズで聞いたことのある言語に対する仮説の話で、『あ、こんなことやるんだ。クイズに役立つかな』と思って、その学問が楽しくなったことがありました」(佐藤さん)
まず興味を持つことが得意になるための前提だとすれば、クイズを通じて多種多様な知識を得ていることは、間接的かもしれないが、たしかに学問へのイントロダクションとして役に立つことはありそうだ。
会のメンバーの半数は、まったくクイズをしない!
ここで、早稲田大学クイズ研究会の紹介をしておこう。
同会の創設は1981年。他の多くの大学クイズ研と同様、伝説のテレビ番組『アメリカ横断ウルトラクイズ』をきっかけにして誕生し、同番組の初期には、当時の早稲田大学生が多数活躍していた。クイズ王として名をはせた西村顕治氏や、現在『一般社団法人日本クイズ協会』の代表理事を務める齊藤喜徳氏も、同会OBである。
その歴史を引き継ぎ、同会は全国の大学クイズ研の中でも、今でも強豪の一角を占めている。しかし、それと同時に、クイズ以外の面でも大いに楽しむのが同会の大きな特色でもある。それは、現在40名ほどいるメンバーのうち、半数程度が「まったくクイズをやらない人」だという点に表れている。
「クイズ以外のことでもいろいろ楽しんでいます。まず、早稲田ならではのことかもしれませんが、お酒ですね。楽しくコンパをするだけのために在籍しているメンバーも、たくさんいます。我々はその状態を受け入れて、クイズのためだけのサークルじゃないと思っています。お酒を飲みたいだけのメンバーも、もちろん会の仲間ですし、そういうメンバーが意外とマニアックな知識を持っていたりするのが、面白いところです」(岡崎さん)
クイズをまじめにやる活動日は週に1回で、それ以外の2回の活動日にはバラエティ寄り、クイズをやらない人でも楽しめる活動をしているとのこと。クイズ研究会と聞けば、クイズで勝つことを目指してひたすら知識を競い合うストイックな集団を思い浮かべるが、少なくとも早稲田大学クイズ研については、そのイメージはまったく当てはまらないようだ。
「クイズを通して、本当に楽しみ、遊んでいるのが、早稲田大学クイズ研究会かなと思います」(岡崎さん)
他にどんな趣味を持っていても、それを活かせるクイズ
そのような会風が背景にあるためか、OB・OGの交流も盛んである。当日見せていただいた会報には、卒業生が毎年旅行に行って交遊を続けている様子などが、楽しい記事としてまとめられていた。
今回、お話をうかがった中では唯一の4年生である岡崎さんは、大学院への進学が決まってはいるが、もうすぐ「学生レギュレーション」のクイズ大会には出場できなくなる(大学院生は学生レギュレーション大会には出場できない)。
新しい環境へと移ることが間近になり、最近強く感じていることがあるという。
「大学に入ってから、あるいは高校からクイズをやっていた人でも、大学卒業を機にクイズから離れてしまう人が多くいます。でも私は、それは悲しいことだと思っています。
なぜなら、クイズって世界で唯一、他のどんな趣味をやっていてもその趣味を活かせる遊びだと思うんです。たとえば、サイクリングの知識を将棋には活かせないですよね。でも、サイクリングの知識も将棋の知識も、どちらもクイズには活かすことができます。ですから、他にどんな趣味を持っていたとしても、クイズには絶対片足を置いておきたいなということを、最近考えています」(岡崎さん)
様々な場面でコミュニケーションのきっかけとなり、新しい知識の世界にいざなってくれるクイズ。せっかくその素晴らしい世界を知りながら、そこから離れてしまうのは、いかにももったいないという風情で、岡崎さんは語ってくれた。
言われてみれば、どんな分野の知識であってもクイズにすることはできる。逆に言えば、クイズに役に立たない知識はこの世に存在しないともいえる。であれば、進学や就職で環境が変わったり、あるいは、なにか新しい趣味を始めたりしても、クイズはずっと続けていける一生の友となるはずだ。
クイズやクイズ研のことをもっと知って欲しい
そのクイズの魅力は、まだまだ世間の人に知られていないと、佐藤さんは考えている。
「最近では、東大クイズ研の伊沢さんをはじめとして、現役の学生がテレビによく出ていて、少し改善されているとは思いますが、クイズ研というと、まだ『まじめに勉強ばかりをしてる暗いイメージ』がどうしてもあります。それを、もっと楽しいんだよ、それこそ早稲田クイズ研みたいにクイズを使ってレクリエーションをやっているところもあるんだよ、というところが、もっと広く伝わるといいなと思っています」(佐藤さん)
取材に応じてくれた3名の方は、いずれも、物静かで温厚な印象を与えてくれる方々だった。しかし、その心のうちには、クイズに対する熱い想いを持ち続けていることが、話しはじめてすぐにわかった。
今回のこの記事が、彼らのそんな想いに応え、クイズの魅力を伝える一端となっていれば幸いである。
クライミングと筋トレが趣味の肉体派中年エディター。
ブレインは弱め。本企画の取材を通じて少しでも鍛えるコツがつかめれば……。
クイズ研
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